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「老北京の胡同 開発と喪失、ささやかな抵抗の記録」 庶民の歴史を残すことの難しさ [読書 : 読んだ本の紹介]

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★あらすじ

胡同(ふーとん)とは、700年前の元の時代から続く、北京の下町、横丁、路地のような空間。「四合院(しごういん)」と呼ばれる伝統的民家をベースに造られた街並みの中に人々の暮らしが営まれている(いた)。
しかし、近年になって急激な経済発展の流れに揉まれ、地名のプレートを剥がされ、更地化され、存在そのものが「そんなものはそもそもなかったかのように」かき消されてしまったケースも少なくない。

中国の土地は基本的に全て国有。政府が取り壊しを決めると、基本的に住民は出て行かざるを得ない。「拆遷公司(チャイチェンゴンスー)」と呼ばれる、家屋の取り壊しと住民の立ち退きを専門に扱う不動産ブローカーによって地上げ屋さながらの手段で住民は追い出される。それでも保証金に納得いかなかったり、その土地から離れたくない住人は最後の手段として“居座り”で抵抗する。だが、ある日の未明、警察の下部組織である「城管(チェングアン)」によって胡同の全ての出入り口が封鎖され、強制撤去が行われた。抵抗していた家は一晩で更地になってしまった。

著者はそんな胡同に自ら居を移し、その生活を実体験する。かつては大きなお屋敷であった「四合院」は、解放後に細分化され、中庭などにも小屋が建てられ、数十世帯が雑居する「大雑院(ダーザーユアン)」の一室だ。表門(かつてのお屋敷の門)から部屋にたどり着くまでの道は迷路のよう。蓄熱型電気暖房が普及する前は練炭ストーブが主流だったが、大家が一酸化炭素中毒を恐れ、使わせてくれなかったので、冬は寒さに震えていた。それでも、胡同には庶民の暮らしを支える飲食店や商店(服屋やら、食器修理ややら)が立ち並び、生活に不自由はなかった(寒さを除いて・・)。

特に、北京オリンピックの際には“再開発”の波が怒濤のように押し寄せた。元のじだいに造られた鐘楼・鼓楼という文化遺産を挟んで、その周辺には多数の胡同が広がっていた。しかし、政府はここを一大観光地にすべく、大改造プロジェクトを発表する。ほとんどの胡同を取りつぶし、道路を整備し、地下駐車場も供えた商業地区に生まれ変えようとしたのだ。そこにはかつての歴史的な街並みや、庶民の間で語り継がれていた昔話にまつわる“名所”も残っていない。

胡同はかつて3,600以上あったと言われている。しかし、2000年には1,200に、2005年には758に減ってしまった。再開発による大規模取り壊しは今も続いている。(本書が執筆された)2014年には500ちょっとになっている。

★基本データ&目次

作者多田麻美
発行元晶文社
発行年2015
ISBN9784797968678
写真張全

  • はじめに
  • 1部 胡同が消える――開発の光と影
    • 第1章 止まらぬ破壊
    • 第2章 伝統的な景観と住環境
    • 第3章 断ち切られる伝説
  • 2部 胡同を旅する――老北京、記憶の断片
    • 第4章 胡同の味
    • 第5章 趣味人たちの都
    • 第6章 華麗なる花柳界
    • 第7章 裏世界をめぐる伝説
    • 第8章 古都の記憶
    • 終章 消えゆくものを引き留められるか?
  • おわりに 老北京はどこへ行く

★ 感想

Rolleiと北京出張 その2 什刹海の胡同巡り」で紹介したが、七年前に出張で北京を訪れた時、胡同“見物”もしていた。当時は、これが胡同かと思ったが、本書を読むと「取り壊したあとに四合院造り風の建物を立てる」こともされているようなので、私が見たのが本物なのか自信がない。もしかしたら、テーマパークもどきのえせ四合院を見せられたのかも・・・。

中国の“再開発”は確かに容赦ないなというのは私もこの目で見てきた。北京でも上海でも、街が一区画丸ごと壁で仕切られ、その中には瓦礫が広がっている。そんな場所がいくつもあった。それだけを見ても、そこにはどんな生活があったのだろうかとか、どんな家族が暮らしていたのだろうかと、哀愁を感じずにはいられない雰囲気が漂っていた。

それにしても胡同に自ら飛び込んで住んでしまうとはすごいなと感心してしまう。庶民の暮らしはそれなりに魅力的ではあるけれども、文化も異なった土地で、しかも知り合いもいないところでなんて。食べ物一つとっても、最初に口にするのは勇気がいりそう。
でも、暮らしてみたからこそ本書は書けたんだなというのも確か。文化遺産的な、歴史上の有名人の家でも、今は普通に誰かが暮らしていることが多い胡同。そんなところにもお邪魔して“取材”できたのは、胡同に暮らす御近所さん的な繋がりができていたからこそだろう。古老の話を聞けたのも、相手が“近所の子どもたちにする昔話”のような感覚を持ってくれたからだし。それだけに貴重な記録と言える。

街は常に変わりゆく。それは致し方ないこと。昔のものを全て残していては、新しいものを採り入れることはできない。では、何を捨て、何を残すのか。これは難しい問題。歴史的価値と言っても、時の為政者や時代感覚によって基準は変わっていく。中国に限らず、世界遺産を見ても、かなり有名にならなければ街並み保存はままならない。日本だって、江戸時代の武家屋敷は保存しようという感覚はあるものの、昭和の長屋・横丁には郷愁は感じるものの、積極的に保存しようと思う人は多くないだろう。
中国の、北京の街の話ではあるけど、まさに他人事とは言えない問題だ。

著者が胡同の暮らしの中で知り合い、結婚した旦那さんが本書の写真を全て撮っている。彼は胡同を撮り続ける写真家だそうだ。そこには、活気に溢れた胡同の様子も、取り壊されて廃墟となってしまった風景もある。著者の文章と共に、写真によっても今の胡同を知ることができた。

もう一度、北京に行ってみたくなった。そして、私が見たのが本物だったのか確かめてみたい。そこはもう、取り壊されて今はマンションになっているかも知れない。でも、そうだとしたら、私が見た胡同は本物だったと言うことだろうか。今度は屋台の料理にも挑戦してみようかな。
そんな気を起こさせる一冊でした。おすすめです。

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人物叢書 「継体天皇」 : 謎多き天皇の謎はいや増すばかり [読書 : 読んだ本の紹介]

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★あらすじ

継体天皇が即位したと考えられているのは六世紀初め。即位前の、五世紀後半の日本は、倭の五王の時代であった。中国南朝宋の歴史書「宋書」に「讃・珍・済・興・武の五人の倭王が宋に朝貢の使いを送ってきた。各王は安東将軍倭国王、または安東大将軍倭国王の称号を授与された」と記されているじだいだ。また、当時の朝鮮半島は高句麗・新羅・百済の三国時代。さらには朝鮮半島南部は加羅(加耶)と呼ばれた地域で、小国が割拠し、支配体制が定まっていない状態だった。倭はそんな朝鮮半島にも軍事的影響力を持っていて、しばしば争いの当事者となっていた。

そんな倭国も五王の時代のあとは争いがあったのか、古事記・日本書紀によると雄略天皇(武王)の子の清寧天皇には後継者がいなかったので、“播磨に隠れ住んでいた”親戚筋の兄弟(仁賢天皇・顕宗天皇)が皇位継承者として迎えられると伝えている。どうやら“王家の交代”があったのではないかと推測されている。さらには、次の武烈天皇は“素行不良”のとんでもない人で、子もなく、その系統は途絶える。
そして、次に選ばれたのが継体天皇だ。武烈天皇の死後、大連の大伴金村・物部麁鹿火らが越前国に隠遁していた応神天皇の五世孫である(後の)継体天皇を迎えたのだった。さらには仁賢天皇の娘(手白香皇女)を后にするのを条件とした。
つまり、継体天皇は前大王との血縁関係は実際にはなく、地方から前王権の本拠地である大和に入り、王権を奪取したのだ。

かくして大王となった継体天皇だが、苦難は続く。九州で「磐井の乱」が起きる。朝鮮半島で戦乱が起き、それに介入すべく継体天皇は兵を送ろうとした。だが、磐井が新羅と手を結び、出兵の邪魔をした。そこで、物部麁鹿火を将軍として、磐井を撃つべく、兵を送ったのだった。

★基本データ&目次

作者篠川 賢
発行元吉川弘文館 人物叢書
発行年2016
ISBN9784642052764
編集者日本歴史学会

  • はしがき
  • 第一 継体即位前の時代
  • 第二 継体の生年と出自
  • 第三 継体の即位
  • 第四 継体朝の内政
  • 第五 「磐井の乱」とその意義
  • 第六 継体朝の外交
  • 第七 継体の死とその後
  • むすびに変えて ― 継体の人物像

★ 感想

大陸の騎馬民族が大和政権を乗っ取った末に王となったのが継体天皇だ、なんて説もあるほどの、謎多き天皇。日本書紀も、先代の武烈天皇をやたらと“サイコパス”な人として描き、逆にそれによって継体天皇を肯定している。この時代の“政権交代”がどのようなものだったのか、少ない資料からはなかなか読み解けないようだ。でも、だからこそ興味は尽きない。

学生の頃に日本史で習ってはいたはずだけど、この時代は朝鮮半島との交流というか、戦争・占領のし合いがこんなに活発だったのかと再認識した。国内統一のための争いである磐井の乱も、朝鮮半島の国々と直接的に関わり合っていた、かなりダイナミックな動きだったんだなと驚き。海を隔てた島国、孤立した存在という意識がどうしても捨てきれないため、そのような先入観で物事を見てしまう。でも、この時代から大陸との関わりの中で存在し、形作られていったんだなと思ったのでした。

著者も「むすびに変えて」で語っているが、“人物叢書”の一冊ではあるものの、継体天皇の人物像をそれほど語ってはいない。まあ、これだけ資料が乏しいのでは致し方ない。途中の議論(推論)も多少、強引に結論に持って行っている感は否めない。でも、筋の通ったストーリーを描き出してくれているので、一つの歴史観として納得できる。
将来、考古学的な新たな発見があればもっとはっきりとしたことが分かってくるのだろうか。そのような時が来ることを期待したい。それまでは“歴史ロマン”と半々で楽しむのがいい気がする。

ということで、天皇誕生日は過ぎてしまったけど、おすすめの一冊です。
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H・P・ラヴクラフト 朗読集2 「異形のもの」 : オーディオブックだと余計におどろおどろしい [読書 : 読んだ本の紹介]

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★あらすじ

● ハーバート・ウェスト――再び命の与うる者

生命が失われた身体に、ある種の化学物質を注入すれば、生命は活動を再開する、という考えに取り付かれたハーバート・ウェストは、大学で実験を繰り返していた。だが、実験には“新鮮な”死体が必要だった。クライストチャーチの墓地に埋葬される死体は防腐処理をされてしまうので、実験には不適切なものばかり。だが、チャンスは巡ってきた。今朝、不慮の事故で死んだ若者が、防腐処理もされずに埋葬されたのだ。
そして、実験は始まった。まずは、確実に死んでいるということを確認したウェストは、理想的に調合した化学物質を“実験体”に注入していった。だが、うまくいかない。仕方なく、もう一度化学物質の調合のために隣の部屋に籠もった。その時だ。生きとし生けるものから出たものとは思えない、おぞましい声、いやうなり声が聞こえたのは。。。

● 忌まわしの館

元々が墓地だったところが“区画整理”され、そこにも館が建てられた。だが、呪われたかのようなその館では、住人が次々と亡くなっていった。地下室がジメジメとした空気を漂わせていて、身体に悪かったのかも知れない。以来、六十年間、誰にも貸し出されることなく、無人の状態となっていた。

幼い頃から近所に住んでいた“私”は、伯父と共にこの館を調査することになった。おかしいのはこの館だけで、近所ではそんな恐ろしいことは起きていない。
さて、その館の地下室では燐光を放つキノコが生え、悪臭さえ放っている。さらには、床にはところどころ、白っぽい何かが染みだしている。さらには、その白っぽい何かから黄色い煙が立ち上っているようにも見えた。しかも、それが、人か何かがうずくまっているようにも見えたのだ。
私たちはその館に泊まり込み、何かが現れるのではないかとその出現を待っていた。

★基本データ&目次

作者H. P. Lovecraft (H.P.ラヴクラフト)
発行元パンローリング
発行年2013
ナレーター 大橋俊夫、佐々木健、清水秀光

  • ハーバート・ウェスト――再び命の与うる者
  • ランドルフ・カーターの証言
  • 忌まわしの館
  • うち潜む恐怖
  • レッド・フックの怪
  • エーリッヒ・ツァンの調べ
  • 言葉に出来ないもの
  • 向こう側
  • この家いちばんの絵
  • アウトサイダー
  • 冷気

★ 感想

“クトゥルフ神話”を中心としたラヴクラフト全集を読み漁ったのは学生の頃だったろうか。戦前の作品で、かなり“大時代的”な表現が多いものの、返ってそれがおどろおどろしさを強く感じさせるスパイスとなっている、“ハマってしまう”作品群だった。
そんなラヴクラフトの作品が耳で読む本、オーディオブック 「H・P・ラヴクラフト 朗読集2 「異形のもの」」― H・P・ラヴクラフトとして、Febeから配信されていると知り、思わずダウンロードしてしまったのでした。
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ラヴクラフトの作品、オーディオブックとして朗読で聴くと、さらに恐ろしさが増しますね。これ、オーディオブックに合っていますよ。ゆっくりとした口調で語られる作品は、冗長とも思えるほど状況描写が長く、それ故にその世界へと引き込まれて行ってしまう感じがした。電車の中で、カフェで聞いていたはずなのに、自分が暗くジメジメとした地下室にいるような錯覚に陥ってしまう。

ラヴクラフトの作品は、いきなりモンスターが飛び出してくる訳ではない。かといって、日本の怪談のように怨念を持った幽霊が“リベンジ”に現れる訳でもない。なんというか、その中間なのだ。元は人間だったものが変わり果てた姿になったりして現れたり、未知の生き物(それ故に、その姿形は想像を絶するおぞましきもの)だったりする。それらがじわりじわりと迫ってくるのだ。しかも、決して能動的に襲ってくる訳ではない。その怪しげな館や墓地に近づかない限りは“奴ら”に遭遇することもないはずなのだ。でも、なぜか主人公たちはその場所へと足を踏み入れてしまう。
怖いもの見たさで我々読者はこの本を読む(オーディオブックを聴く)のだが、実はその前に作品の中の主人公たちが先に“怖いもの見たさの誘惑”に惹かれているのだ。だからだろうか、読んでいて引き込まれ、自分がその場にいるような錯覚に陥るのは。ページを開かなければ遭遇するはずもなかった奴らなのに。。。。

再生時間は約11時間。たっぷりと楽しめますよ。秋を通り越して冬になってしまったかも知れないけど、長い夜のお供におすすめです。

オーディオブック







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