「山怪 山人が語る不思議な話」 深い山奥では、未だにもののけ達の世界が残っているのかも [読書 : 読んだ本の紹介]
★あらすじ
マタギと呼ばれる狩猟関係者や、林業従事者、山間で果樹園や宿泊施設を営んでいる人たちから、著者は山に纏わる不思議な話を聞き取り、収集した。本書はその集大成である。これらは民間伝承と言うほどには整った話ではなく、個人的体験談レベルである。だが、それ故にここで記録をしておかないと誰にも知られることなく消えていってしまうものばかりなのだ。
秋田県北部阿仁町(現在は北秋田市)はマタギ発祥の地として知られている。ここでは狐に纏わる話が多い。
行商人が集約にやって来て、各家を回って商売をしていた。小さな集落ではすぐにその情報はみなの知られるところとなる。だが、“次は我が家にやって来るころ”のはずが、なかなかやって来ない。そこで何人かで探しに出掛けた。すると、あろうことか行商人は素っ裸になって沢に入っているところを発見されたのだ。行商人の話によると、ある辻できれいな女性に会い、その美人に誘われるままに付いていったらこうなったのだそうだ。集落の人々はみな「それは狐に化かされた」と思っている。これは今から四十年前(すでに博多まで新幹線が通っている“最近”)の出来事だ。
兵庫県の丹波猟師の話。チームで猟をしているとき、ある猟師が無線で変なことを言ってきた。「こんなところにきれいな道がある。こっち行くと近道じゃないか。おれはこっちから行く」と。その場所にそんな道はあるはずがない。だが無線で続けて「まっすぐできれいな道が出来ている。真っ白で新しい道だ」と言ってきた。だが、いくら待ってもそいつは集合場所に現れない。これは可笑しいとみんなで捜索に向かおうとしたとき、ひょっこりと現れた。しかも、ぼろぼろの姿で。帽子はなくなり、顔中傷だらけ、全身は泥だらけだった。
★基本データ&目次
作者 | 田中康弘 |
発行元 | 山と渓谷社 |
発行年 | 2015 |
- はじめに
- Ⅰ阿仁マタギの山
- Ⅱ 異界への扉
- Ⅲ タマシイとの邂逅
- おわりに
★ 感想
グリム童話の世界だと、“森”が主な舞台になっている。シュバルツバルト(黒い森)は名前からして何かありそうな場所に思える。日本ではそれが“山”ということなのだろう。人の住むところではない世界。そこでは何か我々の知らないものが住んでいるのかも知れない。そして、これらの話はそんなに昔のものではないことに驚かされる。震災後の福島での話も出てくるし、つい最近と言えるでしょう。物の怪は今も健在なのだろうか。
それにしても著者は良くもこれだけの話を集めたものだ。「夜、木を切る音が聞こえた。あれは狸の仕業かも知れない」だとか、「火の玉を見た。バレーボールくらいの大きさだった」なんて感じの、悪く言えば“たわいもない話”が中心なのだ。語っている方も「誰かに話しても馬鹿にされるだけなので今まで黙っていた」と言うほど。つまりは、人に知られていない、積極的には語られることのない話ばかり。それを聞いて回って集めるのだから大変だ。
著者は民俗学的な観点で解釈しようとしているが、心理学的にも興味深い事象が多いように思える。山の中、真っ暗、一人きりというシチュエーションが人の心理(脳みそによる観測や状況判断)にどのような影響を与えるのか、そっち方面からも解釈できそう。VRではないが、実際に見たり聞いたりしている情報に“何者かの存在”を頭の中で足している可能性もありそう。その人にとってはそれが“現実”になるだろうし。それに、山の森林や菌類から放出される化学物質が環境ホルモンとして影響しているかも知れないし。
でも、集団で“同じもの”を見たという話も出てくるんですよね。そうなると“脳内VR”では説明できないか。うむ、山の中にはやはり何かいるのかな。
実は私も、あれは何だったのだろうか?と言うものを“見た”経験があるんですけどね。さて、私の場合はどっちだろう?
ということで、これから登山やハイキングに行こうって人には必読の書です、これ。おすすめ。
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これはちょっと興味がそそられます。
by JUNKO (2017-05-14 21:31)
JUNKOさんへ:
気軽に読める作品ですし、おすすめですよ。
by ぶんじん (2017-05-15 09:55)