So-net無料ブログ作成

「老北京の胡同 開発と喪失、ささやかな抵抗の記録」 庶民の歴史を残すことの難しさ [読書 : 読んだ本の紹介]

P_20161231_091429.jpg

★あらすじ

胡同(ふーとん)とは、700年前の元の時代から続く、北京の下町、横丁、路地のような空間。「四合院(しごういん)」と呼ばれる伝統的民家をベースに造られた街並みの中に人々の暮らしが営まれている(いた)。
しかし、近年になって急激な経済発展の流れに揉まれ、地名のプレートを剥がされ、更地化され、存在そのものが「そんなものはそもそもなかったかのように」かき消されてしまったケースも少なくない。

中国の土地は基本的に全て国有。政府が取り壊しを決めると、基本的に住民は出て行かざるを得ない。「拆遷公司(チャイチェンゴンスー)」と呼ばれる、家屋の取り壊しと住民の立ち退きを専門に扱う不動産ブローカーによって地上げ屋さながらの手段で住民は追い出される。それでも保証金に納得いかなかったり、その土地から離れたくない住人は最後の手段として“居座り”で抵抗する。だが、ある日の未明、警察の下部組織である「城管(チェングアン)」によって胡同の全ての出入り口が封鎖され、強制撤去が行われた。抵抗していた家は一晩で更地になってしまった。

著者はそんな胡同に自ら居を移し、その生活を実体験する。かつては大きなお屋敷であった「四合院」は、解放後に細分化され、中庭などにも小屋が建てられ、数十世帯が雑居する「大雑院(ダーザーユアン)」の一室だ。表門(かつてのお屋敷の門)から部屋にたどり着くまでの道は迷路のよう。蓄熱型電気暖房が普及する前は練炭ストーブが主流だったが、大家が一酸化炭素中毒を恐れ、使わせてくれなかったので、冬は寒さに震えていた。それでも、胡同には庶民の暮らしを支える飲食店や商店(服屋やら、食器修理ややら)が立ち並び、生活に不自由はなかった(寒さを除いて・・)。

特に、北京オリンピックの際には“再開発”の波が怒濤のように押し寄せた。元のじだいに造られた鐘楼・鼓楼という文化遺産を挟んで、その周辺には多数の胡同が広がっていた。しかし、政府はここを一大観光地にすべく、大改造プロジェクトを発表する。ほとんどの胡同を取りつぶし、道路を整備し、地下駐車場も供えた商業地区に生まれ変えようとしたのだ。そこにはかつての歴史的な街並みや、庶民の間で語り継がれていた昔話にまつわる“名所”も残っていない。

胡同はかつて3,600以上あったと言われている。しかし、2000年には1,200に、2005年には758に減ってしまった。再開発による大規模取り壊しは今も続いている。(本書が執筆された)2014年には500ちょっとになっている。

★基本データ&目次

作者多田麻美
発行元晶文社
発行年2015
ISBN9784797968678
写真張全

  • はじめに
  • 1部 胡同が消える――開発の光と影
    • 第1章 止まらぬ破壊
    • 第2章 伝統的な景観と住環境
    • 第3章 断ち切られる伝説
  • 2部 胡同を旅する――老北京、記憶の断片
    • 第4章 胡同の味
    • 第5章 趣味人たちの都
    • 第6章 華麗なる花柳界
    • 第7章 裏世界をめぐる伝説
    • 第8章 古都の記憶
    • 終章 消えゆくものを引き留められるか?
  • おわりに 老北京はどこへ行く

★ 感想

Rolleiと北京出張 その2 什刹海の胡同巡り」で紹介したが、七年前に出張で北京を訪れた時、胡同“見物”もしていた。当時は、これが胡同かと思ったが、本書を読むと「取り壊したあとに四合院造り風の建物を立てる」こともされているようなので、私が見たのが本物なのか自信がない。もしかしたら、テーマパークもどきのえせ四合院を見せられたのかも・・・。

中国の“再開発”は確かに容赦ないなというのは私もこの目で見てきた。北京でも上海でも、街が一区画丸ごと壁で仕切られ、その中には瓦礫が広がっている。そんな場所がいくつもあった。それだけを見ても、そこにはどんな生活があったのだろうかとか、どんな家族が暮らしていたのだろうかと、哀愁を感じずにはいられない雰囲気が漂っていた。

それにしても胡同に自ら飛び込んで住んでしまうとはすごいなと感心してしまう。庶民の暮らしはそれなりに魅力的ではあるけれども、文化も異なった土地で、しかも知り合いもいないところでなんて。食べ物一つとっても、最初に口にするのは勇気がいりそう。
でも、暮らしてみたからこそ本書は書けたんだなというのも確か。文化遺産的な、歴史上の有名人の家でも、今は普通に誰かが暮らしていることが多い胡同。そんなところにもお邪魔して“取材”できたのは、胡同に暮らす御近所さん的な繋がりができていたからこそだろう。古老の話を聞けたのも、相手が“近所の子どもたちにする昔話”のような感覚を持ってくれたからだし。それだけに貴重な記録と言える。

街は常に変わりゆく。それは致し方ないこと。昔のものを全て残していては、新しいものを採り入れることはできない。では、何を捨て、何を残すのか。これは難しい問題。歴史的価値と言っても、時の為政者や時代感覚によって基準は変わっていく。中国に限らず、世界遺産を見ても、かなり有名にならなければ街並み保存はままならない。日本だって、江戸時代の武家屋敷は保存しようという感覚はあるものの、昭和の長屋・横丁には郷愁は感じるものの、積極的に保存しようと思う人は多くないだろう。
中国の、北京の街の話ではあるけど、まさに他人事とは言えない問題だ。

著者が胡同の暮らしの中で知り合い、結婚した旦那さんが本書の写真を全て撮っている。彼は胡同を撮り続ける写真家だそうだ。そこには、活気に溢れた胡同の様子も、取り壊されて廃墟となってしまった風景もある。著者の文章と共に、写真によっても今の胡同を知ることができた。

もう一度、北京に行ってみたくなった。そして、私が見たのが本物だったのか確かめてみたい。そこはもう、取り壊されて今はマンションになっているかも知れない。でも、そうだとしたら、私が見た胡同は本物だったと言うことだろうか。今度は屋台の料理にも挑戦してみようかな。
そんな気を起こさせる一冊でした。おすすめです。

Amazon.co.jpで購入する
楽天ブックスで購入する
Omni7 セブンネットショッピングで購入する






書評・レビュー ブログランキングへ





nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0