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「生き残った帝国 ビザンティン」 [読書 : 読んだ本の紹介]


生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)

生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)

  • 作者: 井上 浩一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/03/10
  • メディア: 文庫


東ローマ帝国やビザンティン帝国の名前は馴染みがなくても、イスタンブールの名前は有名ですね。そのイスタンブールの街、かつては(東ローマ帝国の時代には)コンスタンティノープルと呼ばれていました。ローマ皇帝コンスタンティヌス1世が内乱を鎮めた後にここに帝国の首都を移した時(330年)にこの名前になったのです。ただ、その時はまだ遠征中の皇帝がたまたまいた場所を仮の首都にしただけに過ぎなかったようです。実際、ローマとコンスタンティノープル以外にも“首都”となった街はいくつもあったのです。しかしこの街は、ローマが東西に分裂して東ローマ帝国が首都と改めて定めた時から、さらには西ローマ帝国が滅んで「ローマ」が東ローマ帝国だけになってしまった時から、その後の一千年を生き抜いた奇跡の街、そして奇跡の帝国となったのでした。
なんかつかみ所のない不思議な国、という印象しかなかったビザンティン帝国ですが、中身を知るとこれがなかなか興味深く、好奇心を大いに刺激する国だったのです。著者はそんな不思議の国ビザンティンが何者だったのかを分かり易く解き明かしてくれています。一千年の歴史を一冊の本に凝縮するのは大変だったでしょうが、逆に歴史に素人の読者にとってはポイントが絞られてよく理解できるものになったと思います。

著者によるとビザンティン帝国一千年の歴史を支えたポリシー・人々の基本的な考え方は、「「ローマ」という建前を貫き通したこと。それが生き抜いていくための精神的な支えになっていたこと」と、「実際には現実に柔軟に対応していくこと」の矛盾する二つのテーゼを使い分けたところにある、と分析している。これはどういうことだろうか。
ローマの皇帝に占領されたとはいえ、この街・土地に住んでいるのはギリシャ人であり、話す言葉もギリシャ語だった。なのに、彼らは自分たちの国を“ローマ”帝国だと呼び、自分たちを”ローマ”人だと称していた。そしてローマの法律を国の運営に使っていた。が、実際は、彼らはギリシャ人で、ギリシャ語を話し、元老院や護民官などと言うものは形だけで、専制君主を戴く体制をとっていたのだ。さらには一部に女性参政権も認めていて、女性でも皇帝になれたのだ。自分たちはローマ帝国を引き継いでいるんだというプライドが彼らを一つにまとめ、異民族の襲来に対して抵抗することができたという訳だ。
なるほど、建前というのは大事ですね。いや、「建前」というとネガティブなイメージになるけど、これを「理念」と呼べばいいかな。異民族に抵抗と言っても、軍事力が衰えてからは相手に貢ぎ物をして許してもらうことが多かったようで、それでも国の中では皇帝は威張っていた。偉大なローマ帝国という建前を国の中に対して貫くことによって、外に対してへつらっていても自分たちのアイデンティティを無くすことなくまとまっていられたのだ。

しかし、この本音と建て前の使い分けというのは当然ながら数々の矛盾を生み出すもの。それをどうやって乗り越えていったかがこのビザンティン帝国の歴史なのだとも著者は語っている。アウグスティヌスの時代のローマ帝国では、自国や属国の農民たちが一生懸命に働き、その稼ぎ(納税)でもって帝国は養われていた。また、兵士として軍隊を形成したのも農民たちだ。だが、だんだんと農民の間に貧富の差が広がり、没落していくものが出てくると、納税者や兵士のなり手が減ってきてしまったのだ。裕福になったものはなんだかんだと手を尽くして税金を逃れ、兵役の義務をすり抜ける。ちょうど、中国の唐が律令制崩壊に伴って国としても滅んでいったような感じだ。地方の有力者がどんどんと力を付けていって、中央の皇帝と大差のない軍事力・経済力を持ってしまう。でも、皇帝は国に君臨していることにしないと帝国としてのアイデンティティがなくなり、外敵の侵入を防ぐことも出来なくなる。結局は、本音だけではどうにもならない敵(オスマントルコ)によってビザンティン帝国は滅んでしまった。でもでも、それまで千年持ちこたえたのも事実。この辺りの、なんかすっきりしない、もぞもぞするような雰囲気を著者はうまくまとめて説明してくれていた。

知らない、馴染みのない国ではあるけど、でもこうやって知ってみるとなんか親近感が沸いてくる。不景気な今の世の中で、どうやって会社を生き残らせるのかなんてところにも通じるものがあるからだろうか。あまりいいお手本にはならないのだろうけど、この国の歴史には学ぶことは多そうだ。ということで、おすすめです。
もっと詳しい歴史を知りたければ、ギボンの「ローマ帝国衰亡史」をおすすめします。








ローマ帝国衰亡史 全10巻セット (ちくま学芸文庫)

ローマ帝国衰亡史 全10巻セット (ちくま学芸文庫)

  • 作者: エドワード・ギボン
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1997/01
  • メディア: 文庫



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コメント 4

mamire

こんにちは~。
残暑見舞いも申し上げぬほど、ご無沙汰しつれいしていました。
西洋史は、とっても苦手。
ぶんじん様の相変わらずの読みっぷりに感服しておりまする。
by mamire (2010-08-30 10:40) 

ぶんじん

mamireさんへ:
民族や宗教だけでも一杯でだんだん訳がわからなくなりますよね。しかも大移動しちゃって大騒ぎだし。でも、そのダイナミックなところが日本史と違っておもしろいかも。
by ぶんじん (2010-08-30 22:48) 

TaekoLovesParis

おもしろそうですねー。
歴史ものは、今の時代を切り抜けていくためのヒントになったりしますね。
ビザンティン帝国は、ローマというプライドで1000年も続いたというのが、すごいですね。それを支える宗教の力も大きかったことでしょう。ビザンティン美術は、宗教色豊かでモザイク画やイコンがきれいですね。
銀座松屋でやっている「アールヌーヴォーのポスター芸術展」を見たのですが、
ミュシャの有名なアールヌーヴォーポスターは、モザイク風のビザンティン美術や
文字が装飾としてとりいれられてました。
by TaekoLovesParis (2010-08-31 23:10) 

ぶんじん

TaekoLovesParisさんへ:
ギリシャ正教関係の美術品、見慣れないせいかとてもエキゾチックに感じますね。いつかイスタンブールに行って本物を見たいなぁ。
by ぶんじん (2010-09-01 21:50) 

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